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VOC分析をAIでどこまで自動化できるか|実態と限界

VOC分析へのAI活用

VOC分析にAIを入れる話は、この2年で一気に増えました。しかし現場で聞こえてくる声は違います。実際に、分析はできるようになったが打ち手が変わらない、と言われます。本記事では、その断絶がどこで起きているのかを整理します。

掲載する数値は、すべて出典と測定条件を確認したものだけです。逆に、目標値を実績として発表しているものや、測定条件が非開示の効果訴求は載せていません。

VOC分析にAIを使うと、何が変わるのか

まず、AIが担える工程を整理します。VOCの扱いは、大きく4つの段階に分かれます。

段階やることAIの現在地
① 収集通話・メール・アンケート・SNSを集めるほぼ自動化できる
② 構造化要約し、カテゴリを付け、集計できる形にする実運用が進んでいる
③ 分析傾向を見つけ、要因を推定する導入は進むが、精度は用途次第
④ 意思決定商品・業務・体制を変えるほとんど届いていない

ここで注目したいのは④です。実際に、国内の事例発表を見ても、③まで到達したものが大半でした。

VOC分析の4段階──AIはどこまで到達しているか

この到達度には、調査データがあります。ただし出所には注意が必要です。

VOC分析ツール「見える化エンジン」を提供するプラスアルファ・コンサルティングの調査があります。同社が自社で実施したものです。対象は生成AIでVOC分析に取り組む担当者329名でした。なお2025年8月5日から6日のインターネット調査です。

この調査では、生成AI活用への満足度が87.6%に上りました。一方で、到達段階を尋ねた設問もあります。「レベル5:意思決定支援レベルまで実施」は7.0%にとどまりました。最多は「レベル3:課題抽出・要因分析まで実施」の37.1%でした。

つまり、満足度は高いのに意思決定には届いていない、という構図です。なおこれはツールベンダー自身による調査であり、回答者も生成AI利用者に限定されています。したがってVOC担当者全体の傾向とは読めません。それでも、満足度と到達度のギャップという構造自体は示唆的です。

国内事例を、測定条件つきで読む

次に、国内企業が公表している取り組みを見ます。数値は測定条件を戻して読んでください。

東京海上日動あんしん生命──年間18,000件の分類

同社は日本IBMとともにモデルを開発しました。具体的には、生成AIを活用した「お客様の声」の分類・分析モデルです。対象は年間18,000件に及ぶ声です。ここにはコールセンターだけの声ではありません。また会社ホームページや営業店等に寄せられたものも含まれます。

実証は2段階で行われました。2024年7月から約2か月間、そして2024年10月から約2か月間です。その後、2025年3月31日より本格導入しています。ただし削減率などの定量的な効果は公表されていません。またAIが担うのは要約ではなく、分類と分析です。

JR西日本カスタマーリレーションズ──後処理時間の推移

この事例は、読み方に注意が要ります。同社とELYZAの発表を見ます。要約業務に生成AIを導入した2023年8月時点で、月次平均の後処理時間は12分47秒でした。そして2025年12月には6分23秒となっています。つまり「約50%の時間にまで削減」したとしています。さらに2025年11月から2026年1月の3か月平均でも6分23秒でした。安定して運用されている状態だそうです。

重要なのは起点です。12分47秒は生成AI導入前の値ではありません。すでにAIが動いている状態での値です。したがってこの約50%は、AI導入そのものの効果ではありません。具体的には、導入後およそ2年4か月の運用改善の累積です。導入時の実証では約21%の時間削減でした。成果が出た対象は、問い合わせのうち「ご意見・ご要望」に分類される、要約の難度が高い領域です。

サントリーウエルネス──通話データの構造化

テックタッチが発表した内容によると、同社はAIを導入しました。具体的には、年間数百万件の顧客通話データを構造化・整理するとしています。AIが抽出した「お悩みの兆し」や「生活状況の変化」を、CRM施策に直接活用する計画です。ただし削減率など定量的な効果は公表されておらず、効果は見込みの段階にあります。

VOC分析でAIが届いていない領域

ここまでの事例には共通点があります。いずれも②の構造化と③の分析に集中していることです。

業界全体の状況も同じ方向を示しています。日本コンタクトセンター協会の「2025年度 コンタクトセンター企業 実態調査」を見てみます。調査は2025年6月16日から7月23日に実施されました。また対象109社に対し68社が回答しています(回収率62.4%)。この報告書には公表日の記載がありません。

同調査では、生成AIを「センター運営の実務で運用している」が33社・48.5%でした(複数回答)。用途については、分母が55社である点に注意が必要です。実運用・PoC・社内検証のいずれかを選択した企業だけを対象としています。その内訳は「応対内容の要約」が74.5%でした。次に「メール文章の作成」が63.6%、「FAQの自動生成」が61.8%です。

つまり用途の上位は、いずれも②の構造化にあたります。VOCを経営判断につなぐ用途は、上位に現れていません。

なぜVOC分析はAIを入れても意思決定に届かないのか

技術の問題ではなさそうです。先ほどのプラスアルファ・コンサルティング調査には、別の設問があります。データ連携面の課題を尋ねたものです。

属性と紐づいていない

最も多かったのは「VOCとその発言者の属性情報を紐づけて分析できていない」で46.4%でした。誰が言ったのかが分からなければ、打ち手を絞れません。実際に、同じ不満でも新規顧客と長期顧客では対応が変わります。

データが分散している

次に多かったのが「部署やチャネルごとにデータが分散」で40.9%です。電話はコンタクトセンター、レビューはEC担当、SNSは広報、という形で持ち主が違います。したがって全体像を組み立てる作業が、分析の前に必要になります。

なお同調査の「課題」設問では、最も多かったのは「セキュリティ面での制約がある」の38.0%でした。設問別の回答者数は公表されていません。

VOC分析にAIを導入する順番

以上を踏まえると、着手の順番が見えてきます。

  • まず、統合先を決めること。分析基盤より先に、どこにVOCを集めるかを決めます。
  • 次に、属性を持たせること。顧客IDや契約状況と紐づかないVOCは、分析しても打ち手になりません。
  • さらに、要約とカテゴリ付与を自動化すること。ここは実運用の実績が最も多い領域です。
  • 加えて、報告の型を先に決めること。誰が、いつ、何を見て、何を判断するのかを定義します。
  • 特に、④に至る担当者を決めること。分析結果を持ち込む先がなければ、レポートは滞留します。

順番を逆にすると、精度の高い分析が誰にも使われない状態になります。

数値の読み方──公表値には条件がある

最後に、他社の数値を参考にするときの注意点です。今回の調査では、掲載を見送った発表が複数ありました。

  • まず、実証実験の開始発表で示された目標値。「〇〇%削減を目指します」は実績ではありません。
  • 次に、リリース前の新機能に関する説明。「工数は実質ゼロになります」は仕様上の想定です。
  • さらに、比較元の測定条件が非開示のもの。従来値の根拠が示されていなければ、削減幅を検証できません。
  • 特に、発表主体がベンダーか導入企業かの区別。同じ内容でも、意味合いが変わります。

まとめ:VOC分析のAI活用は「集める」より「つなぐ」

VOC分析にAIを入れると、収集と構造化は確かに軽くなります。国内の事例も、その領域では実運用に到達しています。しかし意思決定まで届いた例は、公表ベースではほとんど見当たりませんでした。

詰まっているのは分析精度ではありません。属性との接続と、部署をまたいだ統合です。したがって着手すべきは、より賢い分析ではなく、データをつなぐ設計だと考えられます。

VOCの統合や活用設計についてご相談があれば、vottiaまでお気軽にお問い合わせください

執筆:阪口 凛空(vottia株式会社 インターン)。監修:池田 龍矢(vottia株式会社 マーケティング責任者)。vottia株式会社は「maestra」を提供しています。コンタクトセンター向けのAIエージェントプラットフォームです。本記事の数値はすべて各社・各機関の公表値であり、参考リンクに一次ソースを掲載しています。最終更新:2026年7月27日。

Q. よくある質問

Q1. VOC分析のAI活用はどこから始めるべきですか

要約とカテゴリ付与の自動化からが現実的です。国内で実運用の実績が最も多い領域であり、効果も測りやすくなります。ただし着手前に、VOCをどこに集めるかだけは決めておいてください。統合先が決まっていないと、後から作り直しになります。

費用対効果はどう測りますか

後処理時間の削減が最も測りやすい指標です。ただし他社の公表値をそのまま目標にしないでください。測定の起点や対象業務が異なる場合が多いためです。自社の現在値を先に測っておくことをおすすめします。

Q3. 通話の全件分析は必要ですか

目的によります。傾向を掴むだけならサンプリングでも足ります。一方で、稀にしか出ない兆候を拾いたい場合は全件が必要です。まず何を見つけたいのかを決めてから、範囲を決めるほうが無駄がありません。

参考リンク

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