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カスタマージャーニーの再設計|AIと人の役割分担

カスタマージャーニーのAI再設計

カスタマージャーニーにAIが入ると、設計の論点が変わります。どのチャネルを用意するかではありません。どこまでAIに任せ、どこで人に戻すかです。本記事では、その境界の決め方を整理します。

根拠として使うのは3種類です。まず、プラットフォーム各社の公式ドキュメント。次に規制文書、そして国内の調査データです。数値はすべて調査主体と条件を明記しました。

AIが入るとカスタマージャーニーの何が変わるのか

従来の設計は、チャネルの配置が中心でした。電話、メール、チャット、FAQ。どこに何を置くかという話です。

しかしAIエージェントが入ると、論点が移ります。同じチャネルの中で、AIと人が入れ替わるためです。したがって設計すべきは配置ではなく、切り替えの条件になります。

人へ渡す条件を先に決める──カスタマージャーニーにおけるAIの境界

この境界については、プラットフォーム各社が公式に指針を出しています。

プラットフォームの公式指針

まず、Anthropicは自社のエンジニアリングブログでこう述べています。エージェントは人間のフィードバックのために一時停止できる、という設計です。具体的には、チェックポイントや行き詰まりに遭遇したときです(2024年12月19日)。

次に、Microsoftの Azure Well-Architected Framework を見ます。こちらにはより具体的な記述があります(最終更新2025年7月14日)。同フレームワークは3点を挙げています。エージェント自身から独立して動作する監視機構を配置すること。human-in-the-loop チェックポイントを設けること。つまり高リスク・高影響なアクションの実行前に、検証のため一時停止する仕組みです。そして利用者がAIの判断に異議を申し立てられる仕組みを整えることです。

さらにOpenAIは、承認を挟むべき操作を具体的に示しています。キャンセル、編集、シェルコマンド、機微な操作など、副作用をともなうツール呼び出しです。加えて、ガードレールは副作用を生む処理の直近に置くべきだとしています。

承認を挟むべき操作

操作の性質設計
照会・案内(元に戻せる)AIに任せてよい
変更・取消(元に戻しにくい)実行前に人の承認を挟む
金銭・契約・個人情報人が実行する
顧客が人を求めた条件を問わず即座に渡す

つまり判断基準は難易度ではありません。取り消せるかどうかです。

有人対応を求める人は、まだ多い

設計の前提として、利用者側の実態も確認しておきます。

年代で大きく割れる

J.D. パワー ジャパンの「2025年カスタマーセンターサポート満足度調査」を見ます。2025年10月15日の発表で、調査は同年8月上旬から中旬にインターネットで実施されました。回答数は金融業界編が23,562、EC・通販業界編が2,668です。

この調査では、チャットボットの利用率は金融が11%、EC・通販が13%でした。そしてチャットボット利用者のうち、今後も利用したいと答えたのは全体で34%です。高年層(60〜70代)では23%にとどまります。

また、モビルスの「お客さま窓口の利用実態調査2025-2026」も同じ方向を示しています。2026年3月23日発表、2025年12月実施、回答数765のインターネット調査です。窓口で最重視する要素として「なるべく人が対応してくれること」を挙げたのは23.3%でした。60代では33.9%、70代以上では34.8%に上ります。なお同社はカスタマーサポート支援のベンダーです。

つながらないことが最大の不満

同じ調査で、不満の最多は「つながらない・待たされる」の36.6%でした。60代では54.5%です。さらに、窓口対応が購入や利用に影響したことがあると答えた人は66.8%でした。そのうち45.6%が、対応に不満があって購入・利用をやめたと回答しています。

加えて、AIの誤答が離脱に直結するデータもあります。トランスコスモスが2025年11月26日に発表した調査です。2025年7月31日から8月5日に実施され、回答数は4,000でした。AIの誤回答で自己解決できなかった場合、25%が問題解決をあきらめて離脱したとしています。一方で53%は有人窓口での解決を試みました。なお同社はコンタクトセンター受託事業者であり、設問文は公開されていません。

したがって設計上の含意は明確です。AIを置くこと自体より、人へ戻る導線が細くないかが効きます。

国内でジャーニーを組み替えた事例

役割分担を明示している国内事例を2つ挙げます。いずれも提供ベンダーを含む共同発表です。

JALカード──一次対応と振り分けをAIに

日本航空、ジャルカード、Gen-AXは2026年4月15日に発表しました。自律型AIオペレーターの導入です。対象はジャルカードのコンタクトセンターの一部回線です。まずAIが対話型のヒアリングで一次対応と振り分けを行います。そして高度な対応は有人へ接続する設計です。

3社は本格導入に先立ち、事前検証を行っています。結果としてAI完結の正答率9割以上、コミュニケーター接続の成功率9割以上を得たとしています。ただし検証の件数・期間・判定基準は公表されていません。つまり本番運用の実績値ではない点に注意が必要です。

三井住友カード──狭い範囲から始める

三井住友カードとGen-AXは2025年12月3日、AIオペレーターの提供開始を発表しました。同社のコンタクトセンターには月間約50万件を超える問い合わせがあります。

注目したいのは着手範囲です。第1弾の対象は、自社を装った不審な通知に関する問い合わせに限られています。両社は2028年度末までに問い合わせの過半をAIが対応することを掲げています。ただしこれは目標であり、実績ではありません。

実際に、狭い用件から始めて広げる進め方は、失敗時の影響を限定できます。

規制が求める人的監督──カスタマージャーニーのAI設計にどう効くか

設計の自由度には、外側からの制約もあります。

EU AI Actと適用時期

EU AI Actの第14条は、高リスクAIシステムについて人的監督を求めています。使用期間中に自然人が実効的に監督できるよう、インターフェースを含めて設計・開発することが要件です。

適用時期は最近変わりました。2026年7月8日に Regulation (EU) 2026/1744 が採択されました。いわゆるDigital Omnibus on AIです。官報掲載は2026年7月24日でした。これにより高リスクAIの義務の適用開始が改められています。具体的には、Annex III該当システムで2027年12月2日、製品組込み型で2028年8月2日です。

では一般的な問い合わせ対応のAIは高リスクでしょうか。実際に、Annex IIIの列挙に顧客対応そのものは含まれていません。ただし信用力の評価や公的給付の受給資格判定に踏み込む場合は該当しうるため、用途ごとの判断が必要です。なお高リスクでない場合も、AIと対話していることを知らせる第50条の透明性義務は別途かかります。個別の法的判断は必ず専門家にご確認ください。

NISTが求める「上書き・解除・停止」

米国のNIST AI リスクマネジメントフレームワーク1.0(2023年1月)にも、関連する項目があります。

まずMANAGE 2.4です。意図した用途と矛盾する性能や結果を示すAIシステムについて、上書き・解除・停止する仕組みと責任分担を求めています。原文は supersede, disengage, or deactivate です。次にMANAGE 4.1を見ます。配備後のモニタリング計画に、異議申立とオーバーライド(appeal and override)を含めることを求めています。

つまり規制もフレームワークも、同じことを言っています。人が止められること、そして顧客が異議を申し立てられることです。

カスタマージャーニーのAI設計で測る指標

再設計の効果は、満足度だけでは測れません。次の指標を組み合わせてください。

  • まず、有人到達までの時間。AIで止まっている時間が長くなっていないかを見ます。
  • 次に、離脱率。解決も転送もされずに終わった割合です。
  • さらに、CES(Customer Effort Score)。顧客がどれだけ手間をかけたかを測る指標です。
  • 加えて、再問い合わせ率。同じ用件で戻ってきていないかを確認します。
  • 特に、年代別の内訳。全体平均では、高年層の体験悪化が見えません。

なおCESは、論文「Stop Trying to Delight Your Customers」で提唱された指標です。著者はMatthew Dixon、Karen Freeman、Nick Tomanの3名です。掲載はHarvard Business Reviewの2010年7-8月号でした。

カスタマージャーニーをAI前提で組み直す手順

順番は次のとおりです。

まず、用件を取り消せるかどうかで分類します。次に、取り消せない操作には承認を挟みます。さらに、人へ戻る導線を全画面・全チャネルに置きます。加えて、異議を申し立てる窓口を明示します。最後に、年代別で指標を分けて測ります。

順序を逆にして、AIの守備範囲を広げてから導線を考えると、行き止まりが生まれます。

まとめ:カスタマージャーニーはAIを前提に組み直す

AIを入れること自体は、もう論点ではありません。決めるべきは、どこで人に戻すかです。そしてその判断基準は、用件の難易度ではなく取り消せるかどうかにあります。

一方で、利用者側の実態は年代で大きく割れています。したがって全体平均だけを見ていると、高年層の体験悪化を見落とします。指標は必ず分けて測ってください。

役割分担の設計についてご相談があれば、vottiaまでお気軽にお問い合わせください

執筆:阪口 凛空(vottia株式会社 インターン)。監修:池田 龍矢(vottia株式会社 マーケティング責任者)。vottia株式会社は「maestra」を提供しています。コンタクトセンター向けのAIエージェントプラットフォームです。本記事は法的助言ではありません。最終更新:2026年7月27日。

Q. よくある質問

Q1. カスタマージャーニーのAI化はどこから始めますか

取り消せる用件からです。照会や案内であれば、誤答があっても訂正できます。一方で変更や取消をともなう用件は、承認の仕組みを整えてからにしてください。三井住友カードの例のように、狭い用件から始めて広げる進め方が現実的です。

高齢の顧客が多い場合はどうしますか

有人への導線を太くしたまま進めてください。J.D. パワーの調査を見てください。チャットボット利用者のうち、今後も使いたいと答えた高年層は23%でした。したがって自動化率を全体で追うと、この層の体験が見えなくなります。

Q3. 人に渡す条件は何件くらい定義しますか

数より、判断に迷わないかが重要です。まずは4〜5条件から始めてください。運用しながら、迷ったケースを条件として追加していくほうが現実的です。

参考リンク

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